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野崎 剛右 Koske Nozaki, リコーダー

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2018年 12月 07日

German Fingering(ジャーマン式運指)と教育現場でのリコーダー運指の選択についての考察 2017

リコーダー奏者の間でもあまりよく知られていませんが、
 現代のバロックリコーダーの運指には、大きく分けて4種類あります。

Old (with support), Old (without support),
Modern (English) and Modern (German)
です。

 オールド運指はバロック時代に使われていた元来のリコーダー運指で、ヒストリカル・フィンガリング(歴史的運指)とも言われます。当時は6番ホールを塞いでのいわゆる”サポート指”を伴う運指体系の楽器が多かったのですが、現在オールド運指で楽器を製作する際、多くの場合このサポート指は排除されます。

 一方、2つのモダン運指は20世紀初頭の古楽復興の中で、このオールド運指に手を加えて考案されました。ヨーロッパではジャーマン運指は現在は廃れましたが、イギリス式(通称”バロック式”とも)はArnord Dolmetch が開発したもので、現在の古楽シーンでもなお、これが主流です。

 German Fingering (日本での呼称は「ジャーマン式運指」)は、Peter Harlanによって1920年代(1925年頃とも)A. Dolmetsch のEnglish Fingering (「イギリス式」、または通称”バロック式”)運指と概ね同時期に、オールド運指を改変して開発されました。F管アルトリコーダーにおいて、1 オクターヴ目のBbの運指をイギリス式が 01234 67 のクロスフィンガリングを取るのに対し、ジャーマン式は01234 でより簡易的な運指として現在では主に教育現場で知られています。

 先日、S. Marq氏と1930-40 年頃製作のドイツ製 German fingering のリコーダーで、このタイプのリコーダーを想定して作曲された、P. Hindemith の ”Trio” (1932) を演奏しました。この作品はA 管アルトと二本のD 管テナーという編成で書かれていますが、現在ではこれらの管はイレギュラーで、指定の楽器編成で演奏されることはまずありません。今回、A, E, F 管アルト、D 管テナーを試奏しましたが、いずれも息のたくさん入る、すべてジャーマン式運指の楽器でした。日本の YAMAHA 管楽器部門の前身、ニッカン(日本管楽器株式会社)が戦後教育楽器の製造において模範としたのもこのような楽器だったことでしょう。
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↑1930-40年代製作のオリジナルのジャーマンリコーダー。左から、D管テナー(Muller・Orpheus)、F管アルト(”ALCANDO" ダブルキー付き)、A管アルト(Musikhauskoch Munghen SHUTZ・MARKE ''SONORA")。


 また、これらの楽器と同時期にフランスのフルート製作家 L. N. Lot によって製作された6 キー付きの C 管ソプラノリコーダーを試奏しましたが、ジャーマン式と同様の運指を持っていました。この手の楽器はその外観からEnglish Flageoletと混同されることさえありますが、近似するキーシステムではあるものの、異なる音孔数と運指を持っています。Lot 一族が古楽復興にそれほど関与していたようには考えられず、そもそもリコーダー製作は19 世紀、20 世紀にも細々ながらも途絶えずに行われていた事実も加味すると、19世紀代後半にスタンダードになりつつあった Boehm システム・フルートの影響を受けて、同様の運指のリコーダーが、P. Harlan以前にすでに製作されていたとしてもおかしくはないかも知れません。今後さらに調査を行う予定です。
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↑フランスのフルート製作家、Louis Nicolas Lot によるC管リコーダー”Pipeau”は、手軽に演奏でき、愛らしい音色の笛で人気がありましたが、ジャーマン式運指を採用した、あるいは同様の運指を持った楽器の一例でもあります。 (1940年頃製、パリ、個人所有)


 その後のDolmetsch社(イギリス)の商業的大成功によって、ヨーロッパではほぼ完全に排除されたとさえ言って良いジャーマン式運指のリコーダーですが、周知の通り日本の教育楽器メーカーでは、教育現場での需要から現在もなおジャーマン式運指の楽器を製作していて、日本はこの運指の楽器が容易に手にいれられる、数少ない国の一つと言えます。(*ドイツのメック社、モーレンハウエル社では教育用の楽器として非常に少ないラインナップでありながら現在もジャーマン式リコーダーが製造されています。ただし、教育現場での需要は日本ほど多くありません。)
 
 ここで教育現場でよく問題になる、ソプラノリコーダー導入指導における運指の選択について述べたいと思います。 
 前途のように、Modern English fingering は一般に言われるバロック式のことで、これは元を正せば Dolmetsch社の独自の商標であり、製品を正当化するためのネーミング戦略であったまでで、決してバロック時代の運指ではありませんジャーマンもイングリッシュも、どちらも20世紀に、元来のバロックリコーダーの運指を変更して作られた簡易的な運指です。したがって、どちらも同等に正当性はなく、それぞれのコンセプトでオールド運指の難点を改変しています。一般に「ジャーマン式は音程が悪く、半音階運指がかえって厄介」と言われますが、私は上述の経験からこの風評に疑問を持っています。現在、イギリス式がプロの奏者の間で主流なので、このジャーマン式の評価は単にそれと比較した見方だということをまず前提とする必要があります。実際には、ジャーマン式運指の半音階は、イギリス式に見られないところでオールド運指と共通する側面もあります。また、ジャーマン式は一般的に、音程が悪いと言われますが、そのようなことは断定的に言うことはできず、特に現在では日本国内の各教育楽器製造会社によって大変性能の良い楽器が製作されています。イギリス式でも音程の不安定な楽器はたくさんありますし、むしろVoicingやtuning, 他、個々の楽器そのもののクオリティの問題だと捉えられます。 

 しかしながら、イギリス式が現在の演奏家の間で主流である現状から、今日では多くの現代作品、エチュードや教則本はこの運指を想定して書かれており、当然教育現場で使われる教材も同様です。楽器もメーカーによっては、良いグレードのモデルにはジャーマン式の選択肢がない場合もあります。また、ジャーマン式で演奏した経験のない演奏家がほとんどで、彼らにとってジャーマン式で指導することは厄介ですし、特に必要性を見いだす事もないでしょう。これらの現状から、一般的に教育現場ではイギリス式に統一しようという風潮が非常に強くなっています。この状況下でジャーマン式運指はそのものの機能としてはよく知られないまま、過少評価を得ていると言えるかも知れません。
 実際、技術的な面で言えば、学校教育で一般的に演奏する程度の楽曲ならば、ジャーマン式でも問題なく演奏できますし、何れにしても教師がその運指で演奏できるのならば、音楽教育として問題はないはずです。現場の先生方ご自身が、目的に合わせて個々で判断すべきだと、私は考えます。

 加えて理想的には、教師が選択するということだけでなく、児童・生徒にも運指を選択する自由があるべきではないでしょうか。なぜなら、本来楽器(の運指)は奏者が自身の趣向やスタイルによって選択するものだからです。ブラスバンドの多くの管楽器ではクロス(フォーク)フィンガリングのテクニックはリコーダーやその他の同時代の管楽器ほど重要ではありませんが、そういう楽器に触れる以前に、イギリス式リコーダーの運指のちょっとした複雑さから、自分には素質がない、と、既にその時点で演奏を諦めてしまう子供が実際現場には結構います。リコーダーが管楽器導入の障害になってしまっては本末転倒です。

 教師はそれぞれの運指の存在を知り、それぞれの利点を理解した上で、指導環境等、その他各条件を加味して明確な目的を持って購入楽器を選択すべきでしょう。同時に、理想的には子供に選択肢を与えるべきです。(残念ならがら大人数の集団的指導、加えて授業時間削減の状況下では大変困難なことは事実ですが。)

 リコーダーという楽器が元来単なる教育楽器なのではなく、その奥深い世界があるということを子供が知るきっかけを与えることは、もちろん重要な教育要素ではあります。しかしながら、学校教育でのリコーダーの使用目的は、まずは音楽活動のための導入楽器としての役割を最低果たすべきだというのが、私の意見です。そのために、指導環境によっては、EnglishでもGermanでも、目的を持って選択さえされれば、どちらでも構わないはずです。
 もし仮に私が小学校、または中学・高校の音楽科教師として集団的指導でリコーダー導入をする場合、自分自身が慣れているEnglishを選択しますが、その運指で著しく問題を抱える児童・生徒には個別的指導をする中で、選択肢としてGerman を提示します。あるいは、もし何らかの理由で教師がよりジャーマン式に慣れていて、教材の曲を難なく演奏できるのなら、それはそれで良いはずです。ただ、イギリス式にも言述し、それが必要な者に対しては選択の余地があるようにすればなお良いと思います。


 これを機に、ジャーマン式運指のリコーダーも一つの有効な選択肢として教育現場で改めて見直されれば、と思います。

野崎剛右

(随時更新)


by koske-p-nozaki | 2018-12-07 10:53 | リコーダーに関する話題 | Comments(0)


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